『誰がために』 日向寺太郎監督 インタビュー【2】
名演小劇場にて10日(土)より上映中の『誰がために』。日向寺太郎監督の独占インタビュー第2弾として、今回は映画に関連する3つの鍵(key)を紹介しつつ、インタビュー内容を掲載します。
※インタビュー内容には、多少ネタバレ箇所もあります。映画を楽しみにされている方は、ご覧になってからお読みください。
Key 1: ニケ (Nike)
ニケとは、ギリシャ神話に登場する勝利の女神のことです。劇中にはニケが象徴的に何度も登場します。監督に、この像について話しを聞きました。
「まず、僕自身がニケの像が好きだったんです。映画とは関係なく、以前わざわざルーブル美術館まで見に行ったことがあるほどです。(笑)実物はとても大きな像で、腕と首から上がないことによって非常に想像を掻き立てられます。今回は、この像の哀しい運命と亜弥子のはかなさを関連付けられないかと思い、映画の中に登場させました。」
ニケ像は、エーゲ海の北東にあるサモトラケ島で破片の状態で発見されました。その後、修復が施されましたが、頭部、両腕は発見されないまま、その他の箇所のみが復元されたのです。復元された女性像には翼があり、高さは3.28mにもなります。現在、この銅像はパリのルーブル美術館に展示されています。本来なら、自然の形に戻りつつあった破片のニケ像は、不完全な状態で修復され、異国の地で展示される哀しい運命を辿ったことになります。
ニケ像同様、亜弥子もまた哀しい運命が待ち構えています。劇中では、ニケ像を描いた時のことを静かに語る亜弥子。この時、彼女は未来を予感していたのでしょうか。
Key 2: 風(wind)
本作では、川面に風の流れを感じるシーンや下町を風が吹き抜けるシーンなど、風の気配をあらゆるところから感じることができます。風によって語られる部分も多々あるのです。
「亜弥子が両手をひろげ、風をうけるシーンなど、映画の中では『風』と『翼』をイメージするものがよく登場します。やはり、観る側に『風』つながりで考えてもらいたい、という思いがありました。『風』『翼』そして『ニケ』が、亜弥子の生い立ちとだぶらせられると思った部分もあります。」
先ほど紹介したニケ像も、本来なら風をうけながら船首に立ち、翼を羽ばたかせ飛び立とうとする瞬間を見せていたものだろうと言われています。「風」と「翼(ニケ)」との結びつきについて、みなさんも考えを巡らせてみてはどうでしょうか。そして、亜弥子がとらえた風を、感じてみてください。
Key 3: カモメ (A sea gull)
最後に、名演小劇場でのみ話してくれた撮影中のエピソードをご紹介します。予想外のハプニングに見舞われたカモメのシーンについて教えてもらいました。
「民郎とマリが車に乗っている時に、突然カモメがフロントガラスにぶつかるシーンがあります。フロントガラスがわれてしまったんですが、これは意図してわったわけではないんです。幸いうまくいったから良かったですが、車もかえないといけないし、撮りなおしはきかなかったですね。(笑)」
確かにこのシーン、車のフロントガラスがわれています。撮りなおしすることなく、一発OKだったシーンはまさしく浅野さんと池脇さんの演技の賜物!どうぞご期待ください。
以上、鍵となる3つのキーワード 「ニケ (Nike)」・「風(wind)」・「カモメ (A sea gull)」をもとに、インタビュー内容第2弾をお届けしました。
「もし民郎と同じ状態に陥ったら?」という質問に日向寺監督は、「きっと僕も民郎と同じ心境になるでしょうね。おそらく、最後には同じような行動にでるかもしれない。」と答えてくれました。どうしようもない感情と周りの人たちのやさしさ。民郎は監督自身の投影、といえるのかもしれません。
関連リンク:『誰がために』 公式サイト
参考:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』(サモトラケのニケ)
文責:ホームページチーム・レイチェル